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菊地夏野のブログ。こけしネコ。


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ジャニーズ性暴力問題について

 現在問題化しているジャニーズ性暴力問題について書きたい。この問題は現在進行中であり、次々に被害者が名乗りで、ジャニーズ側の対応もあり、またそれ以外の動きも目まぐるしく大きい。できるだけ報道をチェックするようにしているが、私は芸能界には全く疎く、初耳のことが多い。被害者の証言を聞くと衝撃が大きく、揺り動かされる。何を言えるのかわからないが、頭の整理のためにも現時点で考えることを書いておきたい。
 なおメディア上ではこの件は「性加害・性被害」と語られているが、わたしはフェミニズムの運動が発見した言葉として「性暴力」という言葉を用いることにする。


1 権力構造

 問題が明らかになるにつれてわかってきたことは、ジャニー喜多川の権力の大きさだろう。全国から履歴書を送る子どもたちに直接電話をかけて、呼び寄せる。子どもたち少年たちは「スターになる夢」のために参入する。そこで性暴力を受けるが、親にも周囲にも言えず抱え込む。
 典型的な性暴力、セクハラの構図だ。ある種のセクハラは、性暴力と引き換えに「エサ」を与える。「#MeToo」で明らかになったハリウッドの女優たちの場合もそうだ。権力を持つプロデューサーの性暴力を甘受する代わりに、役を提示され有名になることを保証される。私はこの構図はものすごい暴力性を持っていると思う。女優になりたい、アイドルになりたいというのはそのひとが自分の表現によって他人から承認を得て何らかの価値づけを得たいということだろう。あるいはそれと少し違って、何かを伝えたい、それによって社会に何らかのインパクトを与えたいということかもしれない。どちらにしてもその人の生を賭けた強烈な欲求であり意思である。一方、性暴力というものは、支配の行為であり、加害者から「お前は何の価値もない存在だ、俺の性欲解消の道具でしかない」といわれること。

 ジャニーズJr.の少年たちのようにジャニーから性暴力を受け続けながらダンスのレッスンを受け、デビューに向けて努力することは、自分が引き裂かれるような経験だろう。常に自分の価値を貶められながら、舞台ではそれを隠して自分の魅力を表現しなければいけない。それは、自分を自分で傷つけ、ボロボロにし、空っぽにしていく行為ではないだろうか。そしてそれは被害者たち自身が選んでやったのではなく、まさにそれこそが加害者ジャニーの望んだことだ。自分の権力によって少年たちを傷だらけにし、空っぽにすること。それによって自分の存在価値を確認する。怪物のようなものだ。だけど怪物は珍しくない。
 性暴力は性行為ではない、支配の行為である。被害者は自責する。逃げなかった自分、逆らえなかった自分を自責する。それを想像すると本当に辛い。


2 性暴力被害の経験を聞くこと

 今日本のメディア上で多数の被害経験が躍っている。これは90年代の「慰安婦」問題が報道されていた以来のことではないか。私は主にYouTubeのあるチャンネルで被害者インタビューを聞いているが、そのなかで気に掛かったことがあるので書いておきたい。
 このチャンネルは、声を上げた被害者のほとんど全員をゲストにして被害を含めたインタビューを行なっている。貴重なインタビューだと思ったので私も毎回聞いていたが、何度も聞くうちに記者の態度に疑問を感じるようになってきた。それは、ゲストの、被害のごく具体的な詳細部分を聞く時に、細かい点を突っ込み、「他の被害者の方はそういう時こうこうだったと話していましたがどうでしたか」というように、他の被害証言と比較するような質問を多発する態度である。性暴力の被害を語るというのは多大なエネルギーを要するもので、自分を奮い立たせながら義務感で語るものだ。そのような辛い作業を行なっている時に、その人も知らないような他人の具体的な性暴力の詳細を突きつけられ比較されるのは二重三重の負担を強いるものだと思う。それが被害者と記者だけのクローズドな環境でのことならまた別だが、リアルで実況中継されている中で聞くのは、拒否もしにくく相当圧力がかかる。そういったことへの想像力がこの記者には根本的に欠けているように見える。
 他にも「ジャニーズ出身者には独身の人が多いがそれは被害と関係があるのでは」「ジャニーズ出身者にドラッグの使用が多いが性被害と関係があるのでは」など憶測と偏見に満ちた発言もある。「○○さんは被害者の中でも逃げられた方だと思います」とか被害者をジャッジするような発言も耳を疑った。

 この記者は政治家への厳しく批判的な取材態度で名を挙げた方でありその意味の功績はあると思う。だが別件で取材対象者の訴えに耳を貸していないようだし、被害当事者に接するには不向きなのではないか。どうしてもしかたないのなら、今すぐにでも性暴力の専門家(医者、カウンセラー、研究者等)の研修を受けてから取材に当たって欲しい。そうでないと視聴者も辛い。番組のコメント欄に書いたが、私のコメントだけ「いいね」をつけてもらえず無視されているのでここに記した。


3 男性被害者であること

 またこの記者に限らず、今回の性暴力報道は本当に適切になされているだろうか。今回は男性による男性への性暴力である。この事件を過度に「おぞましく、気持ち悪い」と報道しているものも目にするが、そこには男性同性愛への差別意識があると言わざるを得ない。この事件の報道が同性愛差別を惹起しないように配慮した報道はほとんどない。
 そもそもこんなに長い間この問題が放置されてきた理由のひとつには、同性間性暴力であることがある。80年代の告発者たちの手記には「こんなことをいっても馬鹿にされ、自分が変態扱いされるだけ」という記述が多々ある。同性間であろうと異性間であろうと性暴力に代わりないのに、同性間となると嫌悪しまともに扱わない。被害者まで嫌悪する。

 上記番組中でも、被害者が「ジャニーさんのせいでそっちの道に走る人も多いと聞いた。そうなっちゃえば逆に楽だよって」という発言があった。真偽もわからず、確実なのは同性愛への偏見のみの発言である。ただ被害者が回想としてそのままそのような発言をしてしまうのは仕方ないだろう。そこを責めるつもりは私はない。問題なのは、聞いていた記者二人ともなんのフォローもなく流したことだ。この発言を、自分のセクシュアリティについて悩んでいる人が聞いたらどうだろうか。やっぱり同性愛はこういうふうに言われるのだろうと思うのではないだろうか。ひとことでも何かフォローがほしかった。

 昔から今に続く日本社会のホモフォビアが被害者たちを追い詰めていたのだ。
 今回メディアの責任を問う声もあるが、その責任の中にはこのホモフォビア報道の問題も含められるべきだ。主に、ジャニーズ事務所にスタジオを提供していたことやジャニーズタレントを優遇したことなどが問われているが、そこに止まらず、性暴力や同性愛差別に甘く、さらには進んでホモフォビックな番組作りをしてきたことの責任を問う必要がある。
 その上で、上記のチャンネルもそうだが、こんなに性暴力の内容の詳細が配慮なしに報道されているのは、男性間の性暴力だからではないかという点を見直して欲しい。被害者が女性であったらこんなに詳細に取材され報道されないのではないか。そこには「女性にはまずいが、男性だったら聞いてもいいだろう」という判断があるように思える。
 性暴力の報道をするのに、被害の詳細がどこまで必要か?少なくとも今回、報道関係者はこの点をどれだけ真剣に考えているか?被害者たちのなんとかしたいという思い、告発への意思に甘えているのではないか?


4 テレビとエンタティメント産業 視聴者、オーディエンス、ファンであること
 
 わたしはあまりテレビを見ないし、テレビに出るような芸能人もよく知らないので、今回の事件をきっかけにこの面を考え出した。ジャニーズといえば、小中学生の頃クラスで話題になっていたのでメンバーの誰が好きかそれぞれ表明するような雰囲気の中で誰かを選んで言っていたような記憶がある。それくらいの軽さだったが、逆に言えばこんな疎い人間でもそれだけのコミットをする、させられるだけの力をジャニーズは持っていたということである。ある意味、少女たちを異性愛主義に招く作用があるといっていいかもしれない。ジャニーズは「若さ、可愛さ、かっこよさ、さわやかさ」を売っていたわけで、その裏側で深刻な性暴力が行われていたとは、私がこの事件を知った時最初に思ったことはそれだった。ずっとだまされていたような気持ちになった。ここは他で詳論したほうがいいだろうが、ジャニーズはある意味「平和な戦後日本」を飾る一コマだったように思う。その背後に性暴力とは、なんとも見事な戦後日本論が書けてしまう。

 そしてジャニーズには大勢のファンがいる。だが被害者の服部吉次さんの話を聞いていると、ジャニーズのようなアイドルのファンになることの意味を考えさせられる。服部さんは「本当に自分と向き合った者だけが人の心をうち、社会を変える表現ができる」「その意味でジャニーズや今の日本のテレビのエンターティメントはだめだ」という趣旨の話をしている。その通りだろう。わたしも子どもの頃ジャニーズの音楽や表現を良いと思ったわけではなく、テレビでよく放映され、クラスで話題になっているから認識しだだけだ。好きなミュージシャンや俳優らは別にいた。
 (服部さんは若い頃アングラ演劇の活動をされていた役者さんだが、60-70年代のアングラ運動がこの国の芸術を支えてきたと言っていた。わたしはその時代のカウンターカルチャーの意味を改めて発見することの必要性を最近確信しているが、ここでも痛感した。)

 だがおそらく、マスの目や耳に流れてくる音楽や表現の多くは同じだろう。作品や人物の価値とは関係なく、金の力、組織や業界の力で商品化され人々の手元に届く。それは消毒され、綺麗にされ、ピカピカに輝いているが、限りなくそれだけのもの。それが資本主義である。
 そのようなアイドルのファンであることはどんな経験なのだろう。少なくとも、彼らが受けている被害を無視し、笑顔を強制するようなファンであることだけはやめてほしい。



5 戦後日本と性暴力


 ジャニーズの問題がこれだけ長く隠蔽されてきたことを思う度に、続いて思い出すのが「慰安婦」問題である。「慰安婦」問題が起きたのは戦時中であり、ジャニーズは(ジャニーズ事務所に限って言えば)70年代以降だけど、「慰安婦」問題は戦後ずっと沈黙下におかれ、90年代に告発があったけれど今に至るまで正式には解決していない。
 「慰安婦」問題がまだ解決されていないと言うことはやはり、ジャニーズのような大規模な性暴力事件が秘匿されることとイコールなのだ。この社会は、性暴力に向き合っていない。多くの被害者は沈黙を強いられ続けている。権力をもつ男性や組織、国家のために女性や子どもが犠牲になるのは当然なのだ。むしろそれこそが力の証なのだろう。絶望と共にそう思うが、同時に、今回被害者たちが声を挙げ、謝罪と補償を求めているのを聞くと、変わる可能性はあるのかもしれないとも思える。感謝とともに応援したい。









by anti-phallus | 2023-09-06 13:08 | その他