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菊地夏野のブログ。こけしネコ。


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時事論評

この2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって何かが始まったような直観がある。何かが明らかになったのだが、それを覆い隠すイデオロギーにより歪められた形で人々に伝わっている。それも含めて、新しい枠組みが形成されたように感じる。それは何だろうか。

フレイザーが以前から指摘している「保守反動対進歩的なネオリベラリズム」がその大部分を説明してくれる。当ブログでも紹介したが、その構図は「トランプ主義対アメリカ民主党的勢力」と解するのがわかりやすいだろう。このフレイザーの論の核心は、問題がわかりやすいトランプイズムについてよりも、それに抗するように見える民主党勢力を「進歩的なネオリベラリズム」と断じているところにある。フレイザーの批判はむしろこちらの勢力に向けて注力されている。数十年間にわたって経済を金融化させ、労働者の生活を悪化させたネオリベラリズムの大きな担い手として民主党に代表されるリベラル勢力を批判している。彼女・彼らの政治こそがトランプを生み出したと。もちろん大方のリベラル系メディアや知識人もそこを軽く指摘する。だがフレイザーの論の重要さは、そこをソフトに匂わせるにとどまらず、むしろ、そのようにトランプ的なものを批判するかのようにふるまうリベラル勢力の狡猾さを正面から問い直すところにある。またそれは、そのリベラル勢力がフェミニズムを旗印に掲げる時代に入り、まさにヒラリー・クリントンに代表されたからでもある。フレイザーはフェミニズムの簒奪に対しても闘っているのである。

 さてこの構図は、2016年のトランプ大統領当選のさいにアメリカ合衆国内の政治問題として明らかになったのであったが、今回のウクライナ侵攻で、その次元が拡大した点に注意を払う必要がある。プーチンはトランプと親交があったことに表現されているように、両者とも独裁的政治家である。少なくともトランプは今のところ4年の任期で退任したわけだが、プーチンは長期(2000年-2008年、2012年-現在)にわたって大統領を務めている。その独裁的保守反動政治家が他国を侵攻しているわけだが、前述の図式から考えると、「進歩的なネオリベラリズム」に該当するのは、ウクライナのゼレンスキー大統領も含まれるが、より適切には、大規模支援を行っているアメリカをはじめとするNATO勢力全体だろう。つまりまず、アメリカ一国内の動きに見えたものが、現在では国家レベルで世界全体を巻き込んで展開されているのである。

実は、この構図はトランプ出現よりずっと前から起きていたと考えることができるし、そう考えることが重要である。私の記憶には、2001年9月11日のいわゆる「同時多発テロ」とその報復としてのアフガニスタン侵攻、さらに2003年のイラク戦争がまだ生々しく残っている。アルカイダやタリバン、イラクのフセイン大統領らは、反米的で、危険な存在とされ、アメリカから攻撃されたが、その攻撃の大きな目的は、アメリカの大企業の市場開拓であったことは、当時現地で取材した安田純平さんのレポートからも明らかである。イラクでフセイン像が破壊され、すぐにできたのはコカコーラの工場だったという。また、タリバンらの「テロ」組織やイスラム指導者を批判する際にまず使われたのは彼らの「女性差別」的「後進性」だった。つまり「保守反動的な政治家対進歩的なネオリベラリズム」の構図はこの時期においても妥当である。ただし、この時期にはあくまで個別の「テロ」組織やイラクという小国が標的とされていたことが現在とは違う。また、当時、特にイラク戦争開戦前夜には世界的に反戦運動が巻き起こり、日本でも大きなデモが「ピースウォーク」などの形で巻き起こったことも現在とは違う。

今回の事態を考える上で決定的に重要なのは、NATOが冷戦崩壊以来一貫して拡大してきたこと、東西ドイツ統一交渉時にソ連側にアメリカが「東方不拡大」を約束したにもかかわらず無視されてきたことであろう。ウクライナまでNATOに加盟することはロシアにとっては大きな脅威だ。プーチンは言論弾圧、LGBT否定に見られるように「保守反動」ぶりがわかりやすいので、さきの図式の第1項にふさわしいだろう。だが問題は、第2項をどう捉えるかだと思われる。フレイザーは「Progressive Neoliberalism」としていたのだが、「保守反動的な政治対ネオリベラリズム経済」としたほうがわかりやすいように思われる。

そもそも一般的には、近年の国際世界を論じるときに「権威主義対民主主義」という捉え方がよく聞かれる。しかしフレイザーの指摘を踏まえても、アメリカの政治や外交は「民主主義」と一言でいうにはあまりにも問題が大きすぎる。国内であれだけ大きな貧困を抱え、公的健康保険も育児休暇もないような国である。アメリカ的なるものを相対化するためにも「民主主義」とするよりフレイザーのように「ネオリベラリズム」、より明確に「ネオリベラル経済」としたほうがいいように思える。それは、アメリカの民主党の政治の一部にある良質なもの、例えば伝統的に差別への厳しい姿勢だったり、バイデンが打ち出す奨学金免除政策だったりを救い出す意味もある。フレイザーの批判は、そういったリベラルな政策により、より実質的な資本主義の問題や戦争政策が隠蔽されることに向けられているのだが、そこは切り分ける必要もあるだろう。それは、フェミニズムやクィアに関心を向けるひとびとを「ネオリベラリズム」に動員させないためでもある。もちろんネオリベラリズムは単なる経済現象を超えて、文化や政治、私たち個々の主体形成にまで作用する。だがその核心はやはり、無限の資本増殖とそれによる破壊活動にあることを明示したほうが良いと考える。

つまり、ウクライナ侵攻は、「保守反動の政治家対ネオリベラル経済」の構図が世界全体で展開される時代の開始を告げているということだ。1990年代から少しずつ準備され浸透してきた構図が誰の目にも明らかになった。この世界の困難は、プーチンのようなわかりやすい「悪」に対峙するのに、その対峙の拠点がアメリカやNATOのような立場しかないように見える点だ。今日本のマスコミが作り出しているのもこの認識である。アメリカもそんなに良いわけでもないけれどプーチンのような絶対悪よりは数倍マシだからアメリカを支持しようという論理である。この認識によって、アメリカ的なものに代表されるグローバル資本主義の問題性は隠蔽される。グローバル資本主義は戦争資本主義でもあるから、したがって日本の軍事強化は加速され、ひとびとは動員される。これは、スピヴァクらポストコロニアル・フェミニストが批判してきた「ダブル・セッション」である。リージョナルでローカルな「暴力」と、グローバルな資本主義の共犯関係、敵対しているかのように見せながら両者絡み合って女性の主体性を抑圧していく。こうして世界は密かに「男性化」し、暴力が構造化されていく。

さて次に考えるべきは、どのように抵抗と変革の政治を呼び起こすかであるが、アメリカに次いでわかりやすいのがフランスだ。フランスの政治はポピュリズムが明確に表現されている。フェミニズム的なレトリックも駆使するマリーヌ・ルペンが伸びて注目されていたが、その後左派のジャン=リュック・メランションが勢いを得て、先月の下院選でもマクロン派に次ぐ勢いで、ルペンの国民連合より多く議席を得た。ネオリベ支持のマクロン政治の下で、不満を抱える庶民の意識をルペンの右派ポピュリズムが利用して力を得る時期が続いていたが、ここにきてメランション率いる左派ポピュリズムがやっと芽を出した。
現代では近代政治の基本をなしていた政党政治が機能しなくなっている。政党が頼る組織勢力(職場・組合、各種業界、宗教、地域・・)が弱体化し、政治そのものへの不信感が極大化している。自分の生活や生を、政治によって変えられると思えない。そもそも社会の中に自分がいるという感覚が持てない。自分の価値観や信念、政治意識と政党がつながらない。そんなひとびとの気持ちにひびくのが、ポピュリスト政治家のパフォーマンスだ。他の政治家とは異なるように見える信念を持ち、個性を表し、マスではない一人一人に訴えかける。強烈な演説とパフォーマンスにひとびとは魅かれる。

これは、この数十年間でグローバル化が進み、政治の利益構造が1国内で閉じずに、大きな国際的利権構造に拡大されたこととも関係しているだろう。大企業の活動は国境を超えているわけだから、同時に利害関係者も1国内で完結せずに世界中の地域に分散される。それなのに政党政治は一つの国単位で作られ、選挙も1国単位で行われる矛盾。ある意味、選挙がリアリティを失っているわけだ。それを表しているのが左派の「1%の富裕層と99%のわたしたち」という言葉である。このパーセンテージは国境を超えた世界全体で考えられている。

人々のダイレクトな熱情を平等と自由の理念へ向けて発揮しようとする左派ポピュリストの登場にいくぶんかは期待をかけるしかないと思われる。しかし、日本ではフランスやアメリカのようなわかりやすい政治対決はもちろん見えてこない。もともと保守的な政治基盤の中の自民党長期支配の末、自民党はより右傾化した。しかし「右傾化」という言葉を日本のマスメディアは使わないため、右に寄った軸が自明視され、小泉や安倍など自民党政治家の一部はポピュリスト的手法を使いながら人気を得た。フランスやアメリカのようにネオリベ政党と保守あるいは右派政党がきちんと二分化せずに、自民党の中に包摂されているのである。これが自民党のずるさであり強さである。維新という右派の応援団まで登場し、右傾化は止まらないようだ。日本のこの現状を「平和ボケ」という言葉で批判する人もいるが(青木理さんなど)、そんな生易しいものではなく、支配の強さを示していると考えるべきだ。

れいわ新撰組のような左派ポピュリズムはメディアからもかなり強力に排除されている。この先どこまで伸びるかは不透明である。
フェミニズムに絞れば、別稿でも論じたが、政治の右傾化に手を貸すような現象が続いていて頭が痛い。例えばAV新法の混乱があるが、ポルノグラフィーやセックスワークに関するフェミニズムの議論の蓄積は参照されず、「性表現=悪」の規制主義が唯一のフェミニズムとみなされている。新法は一部で話題になったため、フェミニズムにほとんど見識のない他分野の専門家も取り上げることがあるが、そのさいには「規制主義=女性の味方=リベラル」の図式で論じられていて勉強不足にも全く気付かれていない。

悩ましい状況だが、ウクライナ侵攻についてロシアのフェミニストが反戦声明を出した。
このような小さい声だけれども多くの人々の目を覚まし、希望を与える動きもある。この動きをつないていくことを大事にしたい。



by anti-phallus | 2022-07-04 15:33 | つれづれ