菊地夏野のブログ。こけしネコ。
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フランスの買春禁止法(2016)が現場に与えた影響 「新廃止主義」とは
友人の研究者が関わった調査を紹介します。セックス・ワークに関するものです。
日本ではセックス・ワークの問題は、十分に共有されていません。ですがフランスなどの欧米はもちろん、アジアでも議論がたくさん行われ、運動も活発です。日本では90年代に論争が一部で活性化したものの、その後の深化が進んでいないのはとても残念です。また、現在、セックス・ワークを禁止しようとする動きが世界的に広がっており、日本でもその波が見られることをわたしは懸念しています。
今回紹介するのは、2016年にフランスで買春禁止法が成立しましたが、それをめぐって現場にどのような影響があるかを調査した研究者の報告です。この法をめぐってフランスのマスコミ上で大きな議論が巻き起こり、またもちろん当事者の反対運動も行われました。
ちなみに日本では既に売春防止法という法律があり、それによって売春は原則禁止されていますが、風俗営業法によって類似行為が事実上認められている状態です。私見ではこれは非常に国側が管理しやすい法構造だと思います。国側が管理しやすいということは、つまり働く側のコントロールできる余地は小さいということです。
それからここでは詳論できませんが、多くの場合国の禁止政策をフェミニストが支持することが多くあります。しかし一部のフェミニストは現場の働く女性やマイノリティを支持していることも事実です。まずは、冷静な議論の場を確保することが必要です。その意味で、あまり知られていない情報提供という意味でここに抄訳します。
ここで重要なのは、性的人道主義と新廃止主義(neo-abolitionism)という言葉です。これは、売買春を全面禁止しようとするこれまでの伝統的立場(廃止主義)に対して、近年フェミニズムの影響を経て力をもっている、売る側は非処罰化、買う側を厳罰化しようという立場です。その意味で「新廃止主義」とされていて、それは「女性の自由」や「平等」を掲げるので、一見「人道主義」のように見えます。売る側を非処罰化するのは良いことのようですが、じっさいにはそうではなく、ネガティブな影響が大きいことがこの調査からも分かってもらえるかと思います。
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フランスにおける「スウェーデン・モデル」の影響:予言された大災厄の物語
政策決定者が、助けようとしている当事者の声ではなく、偏見に導かれる時、何が起こるのか
2018年4月25日
2014年3月から2015年3月までの間、筆者の二人(MaiとGiametta)はフランスの500人の移民と非移民のセックスワーカーとともに、客を犯罪化することをねらった法案へのワーカーたちの意見を理解するために、調査を行なった。その法案は2014年と2015年に繰り返しフランス議会によって議論され、2016年4月に最終的に承認された(法番号2016-444)。この調査は、2014年1月から2015年12月にわたるエックス・マルセイユ大学地中海社会学研究所による「Emborders:実験的映画製作によって性的人道主義を問題化する」プロジェクトの一部である。このプロジェクトは参加型倫理アプローチを採用し、性産業で働く人々とセックスワーカーを代表し支援する組織が、会合やインタビュー素材の分析同様、リサーチ・クエスチョンの策定まで含め様々な段階で関与した。わたしたちは英国とフランスにおける移民セックスワーカーとセクシュアル・マイノリティの亡命希望者を対象にした人道主義的介入の効果を比較した。
「Emborders」の主要な目的は、フランスと英国における「性的人道主義」の結果を理解することであり、この概念はMaiによって展開され、トラフィッキングと搾取への推定される脆弱性にもとづいた政策形成と社会的介入によって移民セックスワーカーがどのように影響を受けるのかを分析するためのものである。きわめて重大なことに、性的人道主義の概念は新廃止主義言説のグローバルなヘゲモニーに関係している。それは売春をトラフィッキングとまとめ、売春を「男性権力のシステムの模範」として表現し、性的サービスへの要求を除去することによってその廃止を求める。この趨勢は「スウェーデン・モデル」のグローバルな反響によって最もよく例証されている。それは、セックスワークを非犯罪化し、性の購入を犯罪化することによって売春の需要を減らすことをねらう政策形成の枠組みであり、トラフィッキングと戦う理想的な手段とされている。
性的人道主義の概念は新廃止主義の言説のグローバルなヘゲモニーと関わっており、それは体系的に売春をトラフィッキングと一体化させる。
支配的な新廃止主義言説とそれから結果する政治的解決の主な問題の一つは、移民と非移民のセックスワーカーの優先性と必要性を無視することである。それは、貧困や国外追放の危険と同じように、増大した社会経済的脆弱性と搾取されやすさの一因となる。2014-15年に私たちが着手した調査のねらいは、セックスワークのこれらの主流の理解を超えて動くことであり、その代わりに、政府による客の犯罪化案についてフランスのセックスを売る人々の見方を中心にすることである。驚くことではないが、調査された移民・非移民のセックスワーカーの98%がそれ(訳注:客の犯罪化法案)に反対した。
移民・非移民を含めた回答者の多くが、2016年以前からこの問題がメディアで集中的に報道された結果、「法2016-444」が実施される以前からその法の結果、苦しめられ始めていることを報告した。早くも2014年からセックスワークの価格は下がり始め、多くの顧客が罰金を科される恐れからワーカーを呼ぶことをやめた。パリでエスコートとして働く27歳のフランス人女性の言葉は、より詳しくこのことを物語っている。
「近い将来犯罪化されるという恐れから、私の客の何人かはすでに離れていきました。最も尊敬できる人たちでした」(パリ、2014)
また、マルセイユの路上でセックスを得る40歳のトランスヴェスタイトの言葉には同じ不安が宿っている。
「もうすでに起こっています。テレビではいつもその法についてしゃべっていて、客は通り過ぎて、そしてまたゆっくり近づいてきます。1年前には40人の客がいたのに、今では20人。こんなことになるとは思ってもいなかった。前にはしなかったのに今は車に乗ります。客がいないんです。だからできることをしなければいけない。」(マルセイユ、2015)
この法律の予測された否定的影響は、2016年4月から2018年4月にかけてエレン・ルバイとCalogero GiametaとSEXHUMプロジェクトの共同で行われた新しい調査によって確定された。Maiの率いるSEXHUMプロジェクトは、Embordersプロジェクトの最初の重点を、性的人道主義政策と介入の結果をオーストラリア、フランス、ニュージーランド、米国で比較することによって拡大した。
この研究はセックスワーカーを支援する数名のNGO関係者によりフランスで開始され、その後二人の研究者に調査の遂行に協力するよう依頼された。(中略)
この法律の主な目的は、セックスワーカーの数を減らし、以前の公共空間での客引きの犯罪化を廃止することでセックスワーカーを守り、代わりに犯罪性を客に転換することである。しかしながら、この法はその意図された目的と反対のことを達成するに至った。インタビューされた人々の大多数は、客の犯罪化は、以前の客引きを禁じる法よりも自らの健康と安全に対して有害だと信じている。彼(女)らは、新しい法が実施されて以来、客の数が減ったため、自分の労働条件をコントロールしにくくなったと感じている。
そして多くの場合、セックスワーカーは、客を通報するよう警察から圧力を感じており、また非正規滞在の場合、従わないと国外退去の脅威も経験している。さらに、調査によれば、地域レベルではその法律は常には条例と日常的な身分確認を停止していないので(訳注 フランスでは地域によって警察の恣意的な身分確認が禁じられている)、その結果、セックスワーカーはそのいつもの職場や市の中心からより危険な孤立して知られていない場所へと追いやられることになってしまっている。
フランスにおけるセックスワーカーの数を減らすことに失敗している上に、その法律はセックスワーカーの安全と健康、そして全般的な生活条件に有害な影響を与えている。それは、セックスワーカーを、その身体的精神的健康にとって危険な意味を持つ、より有害な条件下で行動するよう仕向けている。その法律は、多くのセックスワーカー、とくにすでに経済的困難を経験している人々、街頭で働く移民女性を貧困化している。客の数の減少とセックスワーカー間の競争の激化により、セックスワークの相場は低下している。
客に罰金が科されるのを避けるため、客との交渉のプロセスは室内が増え、セックスワーカーが客を判断し、選択する余地が厳しく狭められている。セックスワーカーは以前なら断ったであろう客を受け入れざるをえなくさせられている。概して、客と交渉する時間が減ることは、セックスワーカーにとって状況をコントロールするのを難しくする。多くのインタビューにより、コンドームの使用が減っている問題と、HIV陽性の人々が治療を続けることが難しくなっている問題が明らかにされている。労働条件の悪化により作り出された負担もまた、アルコールやドラッグの摂取から鬱状態と希死念慮までの様々な心身相関の健康問題の根元にある。
質的調査の結果はまた、あらゆる種類の暴力的事例が増えていることと、貧困化、増大する健康上の危険と暴力にさらされることが有害な円環を形成していることを明らかにしている。もし、政治家がセックスワーカーたちに耳を傾け、2014-15年の調査結果を信頼し、「スウェーデン・モデル」の影響に関する既存の学問研究に依拠していれば、これらすべての否定的な力学は避けられただろう。彼(女)らは自らの性的人道主義、新廃止主義のアジェンダを優先した。彼(女)らが助けると称する人々の関心に向き合うのではなく。
by anti-phallus
| 2020-02-13 14:37
| セックス・ワーク