菊地夏野のブログ。こけしネコ。


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諦めが生む女性専用車両

 このところ、学生に授業への感想等を書かせると、「女性専用車両」を批判するものが増えてきています。とはいっても授業で「女性専用車両」については全く触れていないのに、です。ジェンダー一般の話をしたのに対して、「昔は男尊女卑だったかもしれないが、今は女尊男卑で・・その代表例が女性専用車両だ」という流れで書いてきます。
 なんだかまるでジェンダー論やフェミニズムが女性専用車両を作ったかのような言われ方なので、ひそかに腹を立てていました(笑)。で、女性専用車両について何か書きたいと思っているなか、名古屋市議会宛てに、女性専用車両に反対する何者かが爆発物を送ったというニュースがあった(名古屋市の地下鉄は女性車両を導入している)り、ネット上で女性車両に反対する会があったりと、世間ではかなり注目されているのを実感。

 そして2日前にはこんなニュースも。




 イギリスで女性専用車両をめぐって政治家間で論争が起こり、女性議員が反対しているということですが、日本でこの問題が政治家レベルでこれだけ大きな論争になることはおそらくないだろう、ということがまずポイント。日本の政治は私たちの日常的な生活空間を公論の対象とすることは少ないですからね、特にジェンダーがらみなんて。
 それからイギリスの女性議員が反対している理由が、女性専用車両は性犯罪の容認につながるということのようですが、このもっともな意見は日本でどれだけ理解されるでしょうか。
 私の感触では、女性専用車両が性犯罪の防止のためだということすら十分認識されていないように思います。いや、というよりは、女性専用車両を設置している鉄道会社が本当に痴漢や性犯罪に対して本腰を入れて取り組んでいるのか、ということですね。鉄道会社が性犯罪防止や軽減に力を入れたければもっと様々な手段が可能なはずです。警備員を定期的に車両内に巡回させるとか、主要駅ホームに被害申し立てを受け付ける窓口を設置するとか、ポスター掲示やアナウンス等の啓発を増やすとか。そういうことをした上での専用車両ならまだ分かるのだけど、そうではなくてポンと専用車両だけ設置されると、お手軽な方法でアリバイ的にやってるのかなと感じられてしまう。

 そもそも鉄道会社を含む日本社会全体が性犯罪の問題に対してどれだけ真剣に考えているのか疑わしい。確かに以前よりは敏感になったかもしれない。だが、痴漢といえば、被害者の立場よりもむしろ痴漢冤罪のニュースのほうが多いかのよう。被害がどれだけ多くて日常化しているか、また被害を受けるとどれだけの傷を与えるか、ということが理解されないまま、男性が女性に被害を申し立てられると無実なのにすぐ加害者に仕立てられる、というイメージばかりが広がっているのではないでしょうか。
 女性専用車両をめぐって、男性専用車両も設置するべきだという声を聞きますが、男性専用車両に賛成する意見に、冤罪被害を防ぐため、というものがあります。これなど見ると、本当に心が寒くなる。この日本は、被害をなくす、また、被害者を支える、という気持ちよりも、「自分が無事でいる」「事件に関わらない」という意識の方が圧倒的に強い空間だということなのです。このような主張が浸透している社会が、本当に性犯罪の問題を重視し、厳しい態度でのぞもうとするわけがない。だから、多くの被害者は声をあげられないのです。

 個人的な経験を書くと、昔、田舎から出てきて東京の大学を受験する朝(満員電車などその日が初めて)に、痴漢にあいました・・。やはりものすごいショックでした。その時のことも踏まえて考えると、痴漢にあった時に、声をあげられたとして、どれくらいのひとが協力してくれるのかな、という不安があるということ。その時は声など上げられず、なんとか逃げましたが。加害をしないという教育や啓発はもちろんですが、声をあげた被害者に協力する、支えるという教育や政策、取り組みも必要。

 また、性別で分離することへの違和感を持つ人が少ない、ということもいえる。私は最終的な地点では女性であろうと男性であろうと性別で分離する車両には反対です。とても気持ち悪い。確かに女性専用車両は居心地いいです。女性の方が動作がソフトな人が多いし、なんとなく静かです(とはいえわたしは女性専用車両に乗った回数は少ないので分からない)。性暴力の被害にあった(性自認に大きな違和感のない)女性、あるいは男性からの性暴力を恐れる女性にとっては、女性専用車両はシェルターになります。だけど同時に、女性専用車両は男性か女性かどちらを選んだら良いか迷う人への想像力をもちません。性暴力の加害者のほとんどが男性であるとはいえ、加害者の100%が男性ではないし、男性の全てが加害者では当然ない。前半の意味合いを選択して、後半の事実を切り捨てる。そのことによって性に関するマイノリティの存在を捨象してしまう。日本社会がどれだけ日常的に性別分離を行なっているか、分離に違和感をなくさせられているかがわかります。
 ですが、わたしは更衣室やトイレは男女別で分けていいと思うし、すべて男女混合にされたらつらい。ただし同時に性別不問の個室的な選択肢も用意する方が望ましいと思うけれど。更衣室やトイレが全て個室になればベストですがそれは現実的にすぐには無理でしょう。

 というように性別分離はごく限られた条件下で許されるもので、鉄道という限りなくパブリックな空間では行われるべきではないと思います。でも日本では女性専用車両はネット上では反対の主張が目立つものの、一般的には乗客に支持されているからこそ、鉄道会社も維持しているのでしょう。ですがこれは、鉄道会社を含む日本社会全体が性犯罪に甘いことへの裏返しではないでしょうか。性犯罪について真面目に議論したくない、取り組みたくないという社会の意識が、被害者を含む女性客に、専用車両を支持させているのではないでしょうか。どうせ痴漢は無くならないのだから、当面自分は女性専用車両に乗って自衛するしかない、というような。諦めが女性専用車両を生んでいるのでは?

 このようななかでネット上で女性専用車両は「男性への差別」「女性の特権だ」という声を聞くと、痴漢の問題からずれて、女性へのバッシングにも見えてきます。なぜ女性専用車両が女性の特権なのでしょうか?女性は常に男性の横にいて、性犯罪のリスクに耐えなければならない、ということでしょうか。性犯罪から逃れることが女性の特権??わたしなどは、女性専用車両があるせいで、それ以外の車両に乗って痴漢にあったら自己責任だといわれるのではないかと怖いです。

いつまでも痴漢や性犯罪の加害者へは注目が集まらない、どのようにしたら加害を減らせるのか、被害者を支えられるのかという議論にはならない。痴漢、性暴力と闘うという認識ではなく、男女という性別で管理、比較競争しようとする社会の意識。
全く悲しい現実が見えてきます。















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by anti-phallus | 2017-08-31 18:33 | フェミニズム | Comments(0)

アイヌのこと

北海道の歴史に興味が湧き、いくつかの点から勉強している。その中でもアイヌの存在は大きい。
今までアイヌについては自分から詳しい勉強をしたことがなく、正確な知識もなかった。ところが北海道の歴史について知る中で、不思議な感覚を味わっている。

沖縄の近代史を勉強して、日本国家の暴力性を学んだ。だが北海道の近代史からは沖縄に対して発動されたのとは異なる暴力性が見て取れる。
沖縄の日本併合、「琉球処分」はあくまでも集権化された琉球王国の「処分」(侵略)だった。一方アイヌは、当時集権化された国家を作っていなかった。アイヌは多くのコタン(集落)に分かれ、それぞれがリーダーをもって生活していた。それが長期にわたる松前藩、江戸幕府からの搾取との戦いの中で弱体化してゆき、明治政府の同化政策で言語や文化を奪われていった。

先日、白老のアイヌ民族博物館においてあった新聞のスクラップブックを見たら、北海道新聞が頻繁にアイヌに関する記事を載せているのに驚いた。それは、道内各地でのアイヌ関連の企画や施策、アイヌ当事者のインタビューなどである。わたしはこれまで新聞でアイヌ関連の報道に触れたことはあまりなかった。北海道新聞の全てを見たわけではないので分からないが、どうも北海道に住んでいるのとそうでないのとでは、アイヌに関する理解度が大きく異なってくるのではないかと想像される。
ここ最近は、ドイツの学術団体が日本にアイヌの遺骨を返還したという報道が新聞のトップニュースになったが、これも、何のことだかよくわからない人が大半だろう。

道外では、「アイヌ民族は滅亡した」というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。そこでは差別の対象としてすら意識されていないかもしれない。だが、学んでいくにつれて、このイメージのもつ政治性に気づかされる。現実には、アイヌの血を引くということで葛藤し、悩み、差別を受けている人々がいる。その事実すらも、「アイヌは滅亡した」という多くの人が持つイメージは消失させる。これがナショナリズムの暴力性でなくて何だろう。

また驚いたことの一つに、白老にあるアイヌ民族博物館が来年閉館するという。この博物館は地域の人々が運営している。白老はアイヌの人々が多く住む地域で、戦後、当事者によるアイヌ観光(?)で賑わったらしい。当時の写真を見たら、明るく当事者と観光客が集合写真に写っていて、何とも言えない気分になった。そして小学校に「アイヌの子供がいるか」といって忍び込んでくる者もいたらしく、そういうことを憂いてこの博物館が作られたと博物館のボランティアの方から伺った。施設内にはカフェがあってアイヌ料理も食べられたり、アイヌ伝統の音楽と舞踊を見学できたりする。それが、2020年に国立博物館と公園がオープンするにあたり閉館をやむなくするらしい。2020年というのはオリンピック開催に合わせたものらしく、なんとも唐突な企画だ。この計画を道外の人はどれだけ知っているのか疑問だし、日本政府は今までアイヌに対してどれだけの取り組みをしてきたのだろうか。日本のマジョリティがアイヌについてほとんど知識のない状態は、第一には政府の責任がある。敗戦による大日本帝国解体後も政府は「日本には外国人はいない、要らない」という態度で十分な政策を行っていない。「日本に先住民はいない」と長年言い放ってきた。この無策によって、アイヌの当事者は言語や文化を継承できず、アイヌ語をしゃべられない人が大半だという。

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博物館のボランティアの方のお話では、この国立施設の構想には、教育に関するものが欠けているという。外向けの、参加型展示やら野外ミュージアムなどばかりで、当事者たちが当事者のためにする視点がない。
政府はハコモノ行政を繰り返すのはやめて、アイヌ当事者が文化を継承しアイデンティティを尊重するための教育や、その他の市民への啓発・教育政策から始めるべきではないだろうか。博物館等を作りたいなら、すでに北海道各地に小さいながら地域や当事者の記念館・博物館等はいくつかあるのだから、それらの活動を支援することだってできるはずである。


アイヌ文化の継承は、当事者にとって必要なだけではなく、非当事者にとっても価値がある。今の日本社会が見失っている精神性をアイヌ文化は教えてくれる。自然に対する価値観、個人と家族や共同体との関係性、生死の意味・・。わたしはまだ知り始めたばかりだが、それでもハッとさせられることがとても多い。近代化により周縁化させられた文化や生き方、価値観を取り戻すことは、わたしたちがどのように生きるべきか、生きたいかを考えるために豊かな示唆を与えてくれる。






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by anti-phallus | 2017-08-07 17:59 | その他 | Comments(0)