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【補足追加】中日新聞上野千鶴子さんインタビュー記事に思う

 ネット上でまた上野千鶴子さんの発言について話題になっています。わざわざ取り上げるのもどうなのかなと思っていたのですが、議論のテーマ自体は日本における移民問題ということで、重要なものです。このテーマで、フェミニストのスタンスがひとつに代表されてしまったらよくないので、ひっそりと書いておくことにしました。

 発端は、下記の中日新聞の記事です。


 この記事自体、そもそもの趣旨がよく分からず、「建国記念?」「司馬?」「日本人?」それでなんで移民問題?とよく分からないことだらけなのですが、紙面ではもっと説明があったのでしょうか。そしてなぜ上野さん?移民問題についてとくに研究成果のある方ではありません。ちょっとやっつけ感のある記事なのですが、とにかくいろいろ問題があるということで批判がなされ、その中でも下記の移住連さんが公開質問状を出されました。

 もっともな内容で、論旨としては「上野氏の発言が実態に基づいていないこと、そして結果的に排外主義を再生産していること」が指摘されています。
 わたしはこれまで研究テーマの一つとして「ジャパゆき」現象についてわずかではありますが取り組んできて、その中でいろいろなことを発見しました。まず大きいのは、移民あるいは在日外国人について日本社会のマジョリティはあまりに無知であること。まあ無知だからといって責めるつもりはなくて、関連する法制度が複雑すぎることにも問題があります。日本には、法的に正式には「移民」という概念はないのではないでしょうか。移民といって一般的にイメージされるのは、生まれたのとは違う国に住み、働いているひとのことでしょう。ですが日本でそのようなあり方はごく特別な例しか認められていません。

 法律も移民法という名称ではなく、「出入国管理及び難民認定法」という法律です。その名の通り、「管理」するための法律であって、これによって在日外国人は日本にいる資格や期間、条件等々を「管理」されています。欧米各国には移民局と通称されるような国の機関があります(正式名称は様々)が、日本でそれに近いものは「入国管理局」で、「入管」と通称されていますが「移民局」といわれることはない。それは日本の入管法・政策が基本的に管理主義的な発想で作られているためで、「移民の権利」を認めるという発想はほとんどないからです。その体質をはっきり表しているのが、在日韓国・朝鮮人に対する歴史的処遇です。日本政府は彼女・彼らが自身の言語や文化、それに基づいた教育を受ける権利を歴史的に否定・禁止してきています。戦後、在日コリアンの人々はそれに対して闘ってきた歴史があります。現在でも高校授業料無償化からの除外政策や、ヘイト・スピーチなど問題は続いています。

 これは法律だけではなく、日本社会の社会意識としても同様だと思います。グローバル化といわれて何十年経っても、多くの人々は「日本は日本人のもの」という感覚でいるでしょう。飲食店やコンビニなどで日本語を話せない外国人の店員さんに対して、「日本にいるんだから日本語しゃべれよ」という目で見てしまうことは誰しもあるでしょう。そこに、彼女・彼らがどのような思いで日本にいるのか、日本語ができずに苦労しているのではないか、ということまで思いを馳せることは少ないでしょう。

 このような社会の雰囲気は、上野さんの発言、「移民を入れて活力ある社会をつくる一方、社会的不公正と抑圧と治安悪化に苦しむ国にするのか」という部分や「日本人は多文化共生に耐えられない」という部分に現れています。つまり、「移民イコール治安悪化」という社会に渦巻いている偏見(それこそ「エビデンス」で否定されるのに)であり、「多文化共生は辛いこと」という(こちらはあまり指摘されない表現ですが)マジョリティの意識です。ちなみにわたしは、この発言を読んで、多くの人々にとって多文化共生は辛いことなのか、と逆に気づかされました。多文化共生というと日本と異なる文化に触れて楽しく交流する、というイメージだと思っていたのですが、それを「辛いこと」と感じる人も多いのだなと。ある意味、「日本の本音」みたいなことなのでしょうね。「日本の本音」を代弁しているのが今回の上野さんの記事であり、だからこそいろんな人が注目しているのでしょうか。

 それから、議論が混乱しているのが、移住連の指摘通り、上野さんが否定している「移民政策」とは何なのか、という点ですが、推測するに、安倍政権の考えている外国人労働力導入政策のことかと思われます。これまで何度か報じられていますが例えば下記。



 こういった政府の動きに対して「移民開国」といって危機感を表明してる方が多いようです。ですがこの政策はどうも技能実習生の枠組みを拡大したり特区を利用するらしいということと、開放する分野は農業・介護・家事などに限定していることから考えて、「移民開国」と言えるようなものではないように思います。既に戦後これまで日本は、大量の外国人労働者を迎えています。特に70年代後半から80年代のバブル期、製造業と性産業を中心に、外国人労働者がいなければ成り立たなかったような状況でした。この時期に多かったのは東南アジアからの人々。当時について以前聞いた当事者からは、「いわゆる不法滞在していても警察は全然黙認」だったそうです。それが90年代の不景気に入ると、途端に取り締まりも厳しくなりました。

 つまり日本の入管政策は、日本経済の都合だけで外国人労働力を入れたり出したりしようというもので、開国という形をとらなくても実質的に国は開いたり閉じたりしているのです。というかグローバル化じゃなくても、国境を完全に閉じることなんてできないのです。人はいろんな理由で国境をいろんな形で越えるのです。国家はそれを制限し、管理しようとします(例えばトランプのように)。今回の安倍の政策もその一環に過ぎません。それに対して「日本は排外的だから開国しない方がいい」と発言することがいったいどんな意味をもつのでしょうか。それはやはり、今までと今の移民あるいは外国籍者の人々が日本で生きてきた、生きている現実を見えにくくしてしまうのではないでしょうか。

 フェミニストとして考えるならば、そのような日本政府の企業中心的外国人管理政策を批判し、日本国籍を持たない女性たちの立場を想像することが大事なのではないでしょうか。私の見てきた限りでは、在日フィリピン人女性のほんとにみなが、夫やお店の客からの暴力、DVに苦しんできています。日本社会の外国人差別と女性差別を真っ向から受けているのです。開国の是非を論じるのではなく、既にある当事者の現実を見据え、彼女・彼らの人権を保障する制度や社会をつくっていくことが求められるはずです。つまり、安倍の政策をどう思うか、という水準(のみ)に乗ってしまってはダメだということですね。基本的な発想のレベルから問題があるので、そうではない法制を根本から主張していかないとダメだ、ということです。実務的な場面で政策の内容について評価する必要はありますが、研究者あるいはフェミニストとして発言できる場合には、現状肯定ではなく、現状を踏まえたより望ましいビジョンを示すことが求められているはずで、そうではないから今回多くの方が批判しているわけですね。

★補足
この論点には非常に深い前提もあって、というのはフェミニズムが移民のようないわゆるジェンダーには直接関連していないとされる問題についてどのように向き合うか、ということです。それについて上野さんは以前から、「フェミニズムはジェンダー(女性)以外の問題には関われない、関わるべきではない」という立場をとることが多い方でした。ただし、それと矛盾する言動もしているので困るのですが。
わたしは、ジェンダーは国籍や民族、人種、階級、身体性など他の社会的カテゴリーと切り離して存在するわけではないので、そのような分離主義的立場は非現実的だと考えています。
この前提にある問題が、今回の論争(?)の根底に横たわっていると思います。このレベルにまで議論を深めることができれば、上野さんの今回の発言も有益な結果を生むことができるのではないでしょうか。

★在日フィリピン人女性のインタビューを用いた拙著論文です。関心のある方、読んでいただけると大変嬉しいです。

「在日フィリピン女性の不可視性」岩崎稔/陳光興/吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズで読み解くアジア』 せりか書房  2011年

「国籍法を変えたフィリピン女性たちの身体性―ジェンダー・セクシュアリティとグローバリズム」森千香子/エレン・ルバイ 編 『国境政策のパラドクス』  勁草書房  2014年





















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by anti-phallus | 2017-02-16 17:31 | フェミニズム | Comments(0)