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フレイザーのトランプ論「進歩的ネオリベラリズムの終焉」

マクロビーに続いてナンシー・フレイザーのトランプ論を訳しました。こちらはマクロビーより立場を明確に打ち出している、フレイザーらしい論評です。今年1月2日付で公開されています。

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前回のフレイザーのインタビューでも見られましたが、トランプの勝利を、ネオリベラリズムで被害を被ったひとびとに支持された結果と解釈しています。そしてその勝利は「進歩的ネオリベラリズム」の敗北でもあると。進歩的ネオリベラリズムとは、グローバルな金融資本主義と「多様性」や「エンパワメント」といった言葉を唱えるエリートたちの結合、を意味しています。本来「多様性」や「反差別」といった言葉は、全ての人々のための理想でしたが、現在ネオリベラリズムに利用されて、能力主義や企業中心主義のための言葉になってしまっているとフレイザーは考えています。これはフレイザーが従来から批判しているフェミニズムの変質と深く関わっている重要な論点です。

トランプの支持者たちは、文化的には「多様性」を唱える教養あるエリートたちから差別され、経済的にもグローバル化で大きな打撃を受けました。本来ならそこで左翼が彼女・彼らの痛みを引き受けるべきなのですが、現代アメリカでは左翼が不在なため、トランプの反動的・差別的な政治にすくわれてしまった、ということです。
しかしもちろんトランプはひとびとの真の救済となるはずはないので、フレイザーは、とくにクリントンを支持したひとびとに、間違いを認めトランプ支持層に訴えかける努力をすべきだ、と論じています。

フレイザーが根拠をおいているのはサンダースやその支持者たちで、これは前に訳したアイゼンスタインや恐らくマクロビーとも少し異なるスタンスなので、そこが面白いと思います。サンダースの支持者たちは、オキュパイ運動等と重なってくるだろうと思いますが、オキュパイ運動にどれだけフェミニズムの視点が見いだせたのか、そのあたりがポイントでしょう(というか私が関心がある)。

それから、この議論を日本に重ねて考えると、社会科学だったり左翼運動だったりフェミニズムだったりの権威ある言説や世界への反感が、近年の右傾化やレイシズム、ナショナリズムにつながっていることが連想されます。日本の右傾化も、グローバル化で経済的に打撃を受けた層によって支持されている面のあることが指摘されています。アメリカほど明確に地域性を示していないのが分かりにくいところですが。

全体的にはわたしとしては、トランプの経済政策だってネオリベのひとつなのでは?(クリントンの進歩的ネオリべに対して、トランプは反動的右翼的ネオリべ、ということになるはず)とかフレイザーの主張する左翼の再生はどれだけ現実的なのか?という点や、多様性を唱えるエリートやフェミニストたちの主体的責任を問い過ぎてないか?(彼女・彼らの責任というより構造的側面が大きい気がするが・・まだ分からない)という点で迷いますが、ともあれ発見の多い、理性的な論評だと思います。多くの方々に読まれ、議論されてほしいです。

追記
非常に良く見ていただいているので付け加えますが、フレイザーのいう左翼が本当に現代の問題に答えるためには、大幅な、今までの左翼の歴史を変える、超えるような変化が必要なのでしょうね。わたしはなんとなく、左翼はもっとフェミニズム(良質の)から学ぶべき、というのがまず最初に来ると思います。






進歩的ネオリベラリズムの終焉


ドナルド・トランプの選挙は、ネオリベラルなヘゲモニーの崩壊を共に知らせる一連のドラマティックな政治的反乱の一つを表している。これらの反乱には、英国における「ブレグジット〔Brexit:イギリスのEU脱退〕」選挙や、イタリアにおけるレンツィ〔元首相、政治改革の国民投票で敗れ辞任〕の改革への拒否、アメリカにおける民主党の指名投票におけるバーニー・サンダースの選挙運動、フランスの国民戦線〔マリーヌ・ル・ペン率いる反EU・移民排斥を唱える政党〕支持の増加などが含まれる。これらはイデオロギーや目標が異なるにもかかわらず、これら選挙による反乱はターゲットを共通している。これらはすべて、企業中心のグローバリゼーション、ネオリベラリズム、そしてそれらを推進する政治的権力者たちへの拒否である。どのケースにおいても、有権者たちは、今日の金融資本主義を特徴付ける財政緊縮、自由貿易、略奪的債務、不安定な薄給の仕事という致命的な組み合わせにNOを突きつけた。それらの選挙結果は、この形式の資本主義の構造的危機に対する応答であり、その構造的危機は、2008年〔リーマンショックの起きた年〕に初めてグローバルな金融秩序がメルトダウン同然に陥った事態によって白日のもとにさらされたものだ。

しかしながら最近まで、この危機への主要な応答は社会的抗議運動だった--もちろんドラマティックで生命力があるが、大体は短命な--。対照的に政治システムは、比較的安泰で、いまだ政党官僚や権威あるエリートたちに牛耳られているように見えた、少なくともアメリカやイギリス、ドイツのような強力な資本主義国家では。しかしながら今や、選挙の衝撃はグローバル金融の要塞を含む世界中に鳴り響いている。トランプに投票した人々は、ブレグジットの投票者やイタリアの改革への反対者たちと同様、その政治的支配者に反抗して立ち上がった。それらのひとびとは、政治的支配層を鼻で笑い、この30年間自分たちの生活条件を侵食してきたシステムを否認した。驚くべきは彼女・彼らがそうしたことではなく、そんなにも長くかかったことである。

にもかかわらず、トランプの勝利はグローバル金融への反乱だけではない。彼に投票した人々が拒否したのは単なるネオリベラリズムではなく、「進歩的な」ネオリベラリズムだった。これは矛盾しているように聞こえるかもしれないが、アメリカの選挙結果とおそらく各地で起きているいくつかの出来事を理解する鍵を握っているのはこのねじれているが現実に起きている政治的連合である。アメリカの場合、進歩的ネオリベラリズムは、一方の新しい社会運動(フェミニズム、アンチ・レイシズム、多文化主義、LGBTQの権利運動)の主流と、他方での高級志向の「象徴的な」サービス産業に基づいた経済セクター(ウオール街、シリコンバレー、ハリウッド)との連合である。この連合において、進歩的勢力は、とくに金融化の認知資本主義の力と効果的に連結した。しかしながら、知らずに前者はその魅力を後者に貸し出した。理論上は違った結末を与え得るはずの多様性やエンパワメントといった理想は、今や、製造業とかつて中流階級の生活をなしていたものを破壊した政策の表面を飾っている。

進歩的ネオリベラリズムは過去30年間にわたってアメリカで発展し、1992年のビル・クリントンの選挙によって承認された。クリントンは「新しい民主党」の主要なエンジニアかつ標準的な伝承者であり、トニー・ブレアの「新しい労働党」のアメリカ版だった。組織化された製造業労働者やアフリカ系アメリカ人、都市の中産階級のニュー・ディール連合に代わって、彼は、企業家、郊外居住者、新しい社会運動、若者、多様性や多文化主義、女性の権利を信ずる本当の現代の進歩主義を主張するすべての人々の新しい連合を築いた。そのような進歩的な観念を支持しながらも、クリントン政権はウォール街の機嫌取りをした。経済をゴールドマン・サックスに差し出し、銀行システムを規制緩和し、脱工業化を促進する自由貿易協定を協議した。脇に追いやられたのはラスト・ベルト地帯である、かつてニュー・ディール時代の社会民主主義の牙城であり、今や大統領選挙人団をドナルド・トランプへ運んだ地域。この地域は、南部のより新しい産業の中心地と共に、この20年間を通して広がった高騰する金融化に大きな打撃を与えた。バラク・オバマを含む彼の継承者に継続され、クリントンの政策はすべての働く人々、とくに製造業関連会社に雇われた人々の生活条件を切り下げた。つまり、クリントン主義は組合の弱体化、実質賃金の切り下げ、仕事の不安定性の上昇、機能停止した家族賃金に代わる二人稼ぎ手家庭の増加について大きな責任がある。

最後の点が示唆するように、社会保障の圧殺は、新しい社会運動から借りられた解放的な魅力のベニヤ板で飾られた。製造業が爆発していた時期、国中が「多様性」や「エンパワメント」、「差別反対」の話で騒がしかった。これらの言葉は、「進歩」を平等ではなく能力主義と同一視して、「解放」の意味合いを、序列を廃止することではなく、勝者総取り方式の企業の序列の中で「有能な」女性やマイノリティ、ゲイなどの小さなエリートが増加することと見なした。これらの「進歩」のリベラルで個人主義的な理解は徐々に、60-70年代に広がった解放の、より拡張的で反序列的、平等主義的で階級に意識的で、反資本主義的な理解に取って代わった。ニュー・レフトが弱体化すると、その資本主義社会の構造的批判は消え、この国に特徴的なリベラルで個人主義的な姿勢が再び現れ、「進歩主義者」と自称左翼の情熱は見えないほどに縮んだ。しかしながらこの扱いを封印したのは、この展開とネオリベラリズムの台頭の同時発生だった。資本主義経済の自由化に傾注する政治団体は、「lean in〔女性がビジネス界などに進出しようとすること〕」や「ガラスの天井を破る」ことに専念する能力主義的な企業のフェミニズムに完璧な仲間を見出した。

その結果は、解放の切り縮められた理想と金融化の致命的な形式を混ぜ合わせた「進歩的ネオリベラリズム」だった。トランプの支持者に完全に拒否されたのはその混合だった。この勇敢で新しいコスモポリタン世界から取り残された人々の間で目立つのは、もちろん製造業の労働者であり、そしてまた経営者、中小零細企業、ラスト・ベルト地帯と南部の産業を必要とする人々、同様に失業とドラッグで破壊された農村地帯の人々だった。これらのひとびとにとって、脱工業化による傷は、彼女・彼らをおきまりのように文化的に遅れていると見なす、進歩派の説教による侮辱によって悪化させられた。グローバリゼーションを拒否することで、トランプの支持者たちはそれと同一視されるリベラルなコスモポリタニズムをも否定した。(全てではないが)ある人々にとっては、自らの状況の悪化を政治的正しさ〔ポリティカル・コレクトネス〕や有色の人々、移民やイスラム教徒のせいにするのはたやすかった。彼女・彼らの眼の中では、フェミニストとウォール街の連中は同類であり、ヒラリー・クリントンの中に完全に統合されていた。

この合成を可能にしたのは、本当の左翼の不在だった。「オキュパイ・ウォールストリート」のような定期的だが短命な爆発にもかかわらず、この何十年というものアメリカでは持続的な左翼が存在しなかった。一方にある金融化を批判するトランプの支持者の正当な不満と、他方の反レイシスト、反セクシスト、反序列的な解放の世界観を結び付けられる左派のわかりやすい語りはどこにもなかった。労働と新しい社会運動の間の破壊的でかつ潜在力のある結びつきは弱体化したままだった。左翼を実現するには不可欠な両極は、互いにバラバラになり、意見が合わず、正反対に位置づけられるままである。

少なくとも驚くべき初期のバーニー・サンダースの選挙運動まで、彼はBlack Lives Matter〔警官による黒人殺害などの黒人差別に反対する運動〕に突き動かされて以後、両者の結びつきのために闘った。サンダースの反乱は、優勢なネオリベラルの常識を打破し、トランプのそれの民主的な側面と共通点があった。トランプが共和党の権力者たちを負かした時、バーニーはオバマの継承者の指名に僅差で負けようとするころだった。民主党ではオバマの党員たちがすべての権力の段階を支配していた。その間、サンダースとトランプがアメリカの有権者の大多数に衝撃を与えた。だがトランプの反動的なポピュリズムのみが生き残った。トランプが、高額寄付者や党の大物たちに好まれる者たちを含め共和党のライバルを簡単に負かしている間、サンダースの反乱は、民主的でない民主党によって効果的に抑えられていた。一般投票のころまでには、左翼のオルタナティブは抑圧されていた。残されていたのは反動的なポピュリズムと進歩的なネオリベラリズムのホブソン的な選択〔究極の選択、選択の余地のないこと〕だった。いわゆる左翼がヒラリー・クリントンに対抗して結束した時、死が約束されたのだ。

にもかかわらず、またこの地点から、これは左翼が拒否すべき選択となった。社会保障の解放に反対する政治家階級によって私たちに提示された用語を認めるよりも、現在の秩序に対する社会的な反感の圧倒的な広がりに基づいてそれらを再定義するよう努めるべきである。社会保障に反対する「金融化と解放」を支持するよりも、金融化に対抗する解放と社会保障の新しい連合を築くべきである。サンダースのそれに基づくこのプロジェクトでは、解放は企業の序列を多様化することを意味するのではなく、それを廃することを意味している。そして繁栄とは、株の配当が増えることではなく、すべての人々にとって良い生活が送れる物質的必要が満たされることである。この組み合わせのみが、現局面で、唯一の信念があり見込みのある回答であり続けている。

わたし個人としては、進歩的ネオリベラリズムの敗北のために涙を流すつもりはない。もちろん、レイシストで、反移民、反エコロジカルなトランプ政権から恐れるべきことは多い。だがネオリベラルのヘゲモニーの内部崩壊も、クリントン主義による民主党の破壊もどちらも嘆く必要はない。トランプの勝利は解放と金融化の連合の敗北を印している。しかし彼の大統領の任期は現在の危機への解答も、新しい体制の約束も、安定的なヘゲモニーもどれも与えはしない。むしろ私たちが直面しているのは、空白期間、誰もが精神と心を手に入れられる開かれた不安定な状況である。この状況下で、危険だけではなく機会もあるのだ、新しいニューレフトを築くための。

それが起きるかどうかは、部分的には、クリントンの選挙運動に集まった進歩派たちの徹底的な自己反省にかかっているだろう。彼女・彼らは、ウラジーミル・プーチンとFBIに支援された「愚かな奴らのバスケット」(レイシスト、女性差別者、イスラム嫌悪者、ホモフォビア)に迷い込んだという心地よいが誤った作り話をやめる必要があるだろう。彼女・彼らは、能力主義と多様性、エンパワメントに関して解放を誤って理解したために、社会保障や良質な生活水準、労働者階級の尊厳を犠牲にした責めを負うべき部分があることを認める必要があるだろう。サンダースの「民主的な社会主義」というキャッチフレーズを蘇らせ、21世紀にそれはどのような意味を持つかを考え、どうすれば金融資本主義の政治経済を変容できるか熟考する必要があるだろう。とくに、彼女・彼らは、レイシストでも右翼でもない多くのトランプ支持者たちに手を伸ばす必要があるだろう、その支持者たち自身が「不正なシステム」の被害者であり、活性化した左翼の反ネオリベラル・プロジェクトに採用されうる、されるべきひとびとである。

これはレイシズムやセクシズムに関する緊急の懸念を無視するものではない。そうではなく、金融資本主義下で長い間歴史的に抑圧されてきた人々が今日どのように新しい表現と根拠を見つけ出すかということを意味している。わたしたちは選挙運動を支配していた誤ったゼロ・サム思考に反論し、女性や有色の人々を苦しめる危害と、トランプに投票した多くの人々の経験を結びつけなければならない。そのようにして、生き返った左翼が全ての人々のために闘える強力で新しい連合のための基盤を作ることができるだろう。




























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by anti-phallus | 2017-01-28 23:19 | フェミニズム | Comments(4)
Commented by yomodalite at 2017-01-30 13:12
ナンシー・フレイザーのトランプ論を翻訳していただき、ありがとうございます。私は、苦手な英語力で、ジョン・ピルジャーの「問題はトランプではない。我々自身だ」を訳してみたり、昨日は、オリバー・ストーンの『スノーデン』を見た帰り、またもや空港での激しいデモのニュースを聞き、「大幅な、今までの左翼の歴史を変える、超えるような変化が必要なのでしょうね。」に、強くうなづくものの、暗澹たる思いをしているところです。
Commented at 2017-01-31 11:21 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by anti-phallus at 2017-01-31 12:58
> yomodaliteさん
こちらこそありがとうございます。
トランプの移民政策が注目されてますが、日本の移民否定政策、つまり入管政策だって相当問題なのに、自国の問題はスルーの報道もがっかりです・・・。

Commented by anti-phallus at 2017-01-31 12:59
> fujikoさん
そうなんですよね〜適切な訳が思い当たらず。何かありましたら教えてください。