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f0210120_20352836.jpg トランプ当選でますます混迷している世界だが、最近読んだ本の感想。

 まず青木理『抵抗の拠点から』(講談社)。「朝日新聞「慰安婦報道」の核心」というサブタイトル通り、2014年の朝日新聞バッシングを探った本。吉田清治氏の証言が誤りだったと朝日が認め、それを訂正する記事を8月に掲載したことに端を発した問題。この本は、朝日の関係者にインタビューしていて、それが面白い。

 吉田証言とは、「慰安婦」問題が90年代前半に明るみに出たころに散見されていたが、右派のバッシングがいうほどに重要な位置をもっていたわけではない。朝日の報道が吉田証言がなければ成立しなかったかというと全くそんなことはない。だから、そもそも朝日がなぜ今それについてわざわざ訂正記事を出さなければならなかったか、記事を読んだ時わたしは理解に苦しんだ。そんなことをすれば「慰安婦」問題を否定したい人々は喜ぶだけだ。じっさい、ものすごい朝日バッシングが巻き起こり、当時本屋に行くと朝日新聞や「慰安婦」被害者をおとしめるタイトルを冠した特集を掲載した雑誌が並んでいて、気分が悪くなったことを覚えている。

 そういう疑問を持っていたこともあり、インタビューから朝日の内情を伺えて有益だった。印象に残るのは、この訂正報道のあった当時、朝日の編集幹部だった市川記者の発言。

「僕自身、今回は大きく3つ、時代を読み誤ったと思っています。一つは政治状況が様変わりしていた。」(199ページ)

 この発言に端的なように、朝日の人々は楽観視してしまっていたのではないだろうか。吉田証言を訂正しなければと朝日が考えた背景には、右派の強烈なバッシングがそもそもあっただろう。そしてバッシングの大きなネタのひとつに、吉田証言があった。右派は吉田証言を否定することで「慰安婦」問題全体をなかったことにしたい。朝日はそのロジックに乗せられてしまったのだ。本書によれば、朝日には、吉田証言の誤りを認めた上で、「慰安婦」問題について立て直して取り組みたいという意図があったという。じっさい当時の紙面もそういう趣旨で書かれていた。だが、そもそもそういうスタンスを取ること自体、吉田証言が「慰安婦」問題の中で重要な位置を持っていたと認めることになってしまうが、それは実態と異なるし、その時点で右派のロジックに乗っていることになるのだ。朝日はこのポリティクスに気づいていなかった。そしてものすごい潮流に飲み込まれた。
 
 時代を読み誤っているのは朝日だけではないと思う。例えばマスメディアに関わる人々の多くが同じだろう。今回のアメリカ大統領選で報道の予測とは違ってトランプが勝ったのも、その一つの例ではないだろうか。マスメディアの作り手側の人々だけではなく、メディアによく接する層の人々とは違うところで、マスメディア、特に活字メディアから遠いとことにいる人々の間で、どんどんマグマが溜まっているのだろう。これまでも階層による断絶はあったわけだけど、社会の制度が固定化している時代には、ある程度マグマを収める機能が働いていた。今は制度が融解し、マグマを固める機能が弱体化している。


 続いて読んだのがアメリカのジャーナリストのもので、メアリー・メイプス『大統領の疑惑』。映画を先に見て、ブッシュ前大統領の軍歴詐欺を扱ったもので面白かったので読んだ。びっくりしたのは、このひとはアブグレイブの米軍によるイラク人捕虜への拷問をスッパ抜いた人でもあったということ。映画を観たときには知らなかった。メイプスはブッシュがベトナム戦争時代に、ベトナムに送られることを避けるためにコネを使ってテキサスの州兵となり、さらに軍役を怠っていたということを突き止めCBSの番組で報道するのだが、その過程で陰謀か、罠か、出所の明らかでない文書を証拠のひとつとして使うことになり、放映後その真偽を疑われ、最終的に解雇される。その経緯を書いた手記である。

 2冊読んで、この二つの問題の類似性に驚いた。「慰安婦」問題とアメリカ大統領軍歴問題。一見異なる文脈にあるのだが、詳細を知ると、どちらも重要ではない小さな点を問われ、それでもって問題の全体がなかったことにされてしまう。論理的に考えればバッシングが間違っていることが分かるはずなのに、論理とは別のレベルで政治が動いていく。その中で果たされたインターネット言説の大きさ。また、CBS上層部は現場のジャーナリストを切り捨てるが、その判断を支えたのは政治とカネ。朝日新聞も同じだろう。
 そしてそもそものトピックが、軍隊に関わるものであるということ。「慰安婦」問題はいわずもがな軍人の規律やモラル、倫理性に関わるものだ。ブッシュの方も、アメリカは日本より軍隊に対する社会的な信頼が高い国で、そのため政治家の軍歴も重視される。私も一瞬、ブッシュが若い頃に真面目に軍役を果たしていたかどうかなんてどうでもいいんじゃ・・・と思いそうになったが、そうではないのだろう。とくに徴兵制の布かれていた当時、後に大統領になった若者が、どういう姿勢で軍に、戦争に臨んだかということは、有権者の政治家に対する信頼を揺るがす意味をもっているのだ。メイプの番組が報道された時はブッシュの再選が目指されていた時期で、そういうときに軍歴に詐称や疑惑があったということは選挙結果に大きく影響する。

 つまり、「慰安婦」問題もブッシュの軍歴問題も、軍に関わる人々(男性)の倫理性が問われる問題なのだ。

 この2国で起きている問題の類似性は、現在、国家という権威と権力をめぐって軍を掛け金とする社会的な闘争が起きているということ、この二つの事例においては国家の威信を(無批判に)守ろうとする側が勝ったということを意味しているのではないだろうか。結果を見るとどちらも非常に残念な事例なのだが、現在の時代を、社会を理解する上で非常に役に立った。























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by anti-phallus | 2016-11-11 20:45 | ブックレビュー | Comments(0)