菊地夏野のブログ。こけしネコ。


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『大地を受け継ぐ』『キャロル』

 最近見た映画のレビューを。
 『大地を受け継ぐ』は福島の被災農家の跡継ぎの男性を主人公としたドキュメンタリー。新聞でいくつか掲載されていたので混んでるかなと心配しながら見に行ったら空いていて悲しかった。このテーマの映画なら大勢が観につめかけるようじゃないとだめなんじゃないか・・・。まあ平日朝だから、と気を取り直して観た。
 思ったよりシンプルな作りだったが、主人公の語り口は圧倒的だった。映画はあっという間に終わった。父親の死、という出来事を受けながら、農業を受け継がざるを得ない彼の思いを、わたしは完全に理解できたとはいえない。私の家はいちおう兼業農家だが両親とも仕事は別なので、わたしにももともと農業という選択肢はなかったが、母からよく聞かされた福島の山の豊かさ、自然とともにする生活は記憶に残っている。宮城(県北)のような広く田んぼが続く風景とは違い、母の実家は福島市内だが山が近く、キノコや山草が食卓に出てくるような生活だったらしい。わたしは東北の「田舎」出身だが、情報やヒト、資源あふれる都会に生まれなくてよかったと思っている。そういう思いが、映画の主人公にもあるのかもしれない。
 豊かな福島の自然が汚されてしまったという思いが辛い。しかもそれを回復しようとするどころか、全国あちこちで再稼働がねらわれている現実。
 主人公の話を聞いている学生から、「自分は東京に住んでいて、東電に電気代を払っている。そういうことを忘れたい、気にしないで生活していたいという思いがある」という発言があった。こういう思いは、今日本の多くの人が持っているものではないかと思った。震災、原発を忘れないと普通に生活していけない、という感じ。本当は被災者ができるだけ生活を安定できるように、原発依存のエネルギー政策から抜けられるように自分も何かしたいという思いは多くの人が持っているのではないかと思う。にもかかわらず、そういう思いを形にできない。政治の行き詰まりと過酷な労働環境。

 去年観た橋口亮輔監督『恋人たち』にも通じる、この絶望的な空気。『恋人たち』はレビュー書けてないけどこの数年間でのわたしのベストシネマになった。

 『大地を受け継ぐ』で最後にかかった曲はあまりに明るくて、本編の雰囲気とは大分違うので「え?」と思ったのだが、無理矢理にでも明るくしないと生きていけない今のわたしたちの気分を象徴的に表しているのか?と勘ぐり。
 できるだけ多くの人に観てもらいたい作品。


 そして『キャロル』はたぶん宣伝しなくても大勢が観ているだろう作品。女優は二人ともうまいし、ストーリーも単純ながらツボを押さえていて良かった。確かに、レズビアンを扱った文学や映画ってなかなかハッピーエンドで終わるものが少ない!という中で、こういう映画は嬉しい。
 原作者のパトリシア・ハイスミスは、あの『太陽がいっぱい』の原作者でもあるんだけど、この『キャロル』は1952年に刊行された当時は架空の作家の名義で発表されたという。ハイスミスのキャリアを考慮して。つまりスキャンダルになるのを避けたということですね。原作の文庫の解説によれば、ハイスミス自身レズビアンだったようだが、そのことで診察も受けていたという。『キャロル』を読むと、女性への愛情がはっきりと描かれているのだが、そのセクシュアリティを隠して、自分の作品をそのまま発表できなかった作者の思いはどんなものだったんだろうかと偲ばれる。
 原作は、テレーズの視点で詳細にふたりの関係が語られるので面白いですよ。
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by anti-phallus | 2016-03-09 17:07 | シネマレビュー | Comments(0)