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菊地夏野のブログ。こけしネコ。


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クレイジーホース★パリ 夜の宝石たち

 ワイズマンの新作。ワイズマンは社会派ドキュメンタリー監督。視点が鋭いひとなんで、通好みかな〜。
 クレイジーホースというのはパリにある由緒あるキャバレーらしい。「世界初にして、最高のヌードダンスショー」を標榜。ワイズマンはそこに入り込んで、表と裏を撮影。
 これが不思議な後味を残す映画で、気づかない人には単なる長丁場やったなーで終わりそうなんだけど、一旦気づいてしまうと、痛烈な現代社会の表象批判として解釈できる。
 前半は、観客の期待通り、クレイジーホースの魅惑的なショーに目を奪われる。美しく鍛えられた女性たちの身体が戯れ合い、うごめき、見る者の感性に訴えかける。また制作側の苦労を伝える一幕も入ってきて、前作『オペラ座』同様、ショーの裏側にある娯楽産業としての悲哀をかいま見せる。
 しかし、だんだんと、ショーに飽きてくるのである。これが直接、劇場で観ているのならまだしも、映画なのだから結局は自分の目で見ることはできず、あくまでカメラが見ているものを観せられているだけ。そのカメラが、だんだんと冷たく感じられてくると、観るものは、「結局、女性の美とかエロスの極致(制作者のインタビューでの言葉)とか言っても、似たような顔した女性が身体くねくねさせてるだけじゃんか」という皮肉な気持ちになってくる。
 そうしているところに、ダンサーのオーディションの場面。10人ほどの応募者にひとりずつ踊らせ、審査員のコメントが入る。そのなかで、他の応募者たちと違って体つきの大きい男性らしき、けど胸も多少あるような応募者がステージに出ると、審査員がざわめき、さっさとダンスを終わらせ退場させる。そしてそのときのコメント、おそらくは内輪でささやいた程度であろう監督の「性転換者はダメだ。チャーミングだけどね」というひとことを映画は敢えて残している。オーディションの終わり、受かったダンサーたちを前にして、また気になるコメント、「ロシア人は何人?」。
 つまり、クレイジーホースはパリの生粋の美の殿堂を気取りながら、結局は、「ヨーロッパ的」基準の「美しい女性」を並べているだけであり、そこではジェンダー二元論は当然崩されてはならず。美というのは同じような高い身長、長い手足、白い肌、整った目鼻立ちという基準で決定されるものであり、「パリの紳士」が通う場所でありながら、ダンサーたちの少なくない割合はロシアからの移民なのだ。
 もちろんこのような美の基準、白人中心主義的ジェンダーステレオタイプは、クレイジーホースのみならず、現代のほぼあらゆるマスメディア等表象産業を覆っているものである。しかし、ベネトンの多文化主義的販売戦略が定着した今、そのような復古的世界はどれだけ維持できるのだろうか?フランス社会は非異性愛への承認意識が低いという主張があるが、まさにそれを見せてくれたよう。
 制作者たちのクレイジーホース礼賛コメントが続く中、白けた気分にならざるを得ない。エロス、セクシュアリティというものはもっと流動的で、変容するからこそ面白いはずだと私は思うが、この映画で映し出されたクレイジーホースにおける美は、定型的で、世の中のマスの価値観を代表しているに過ぎない。

 ワイズマンがどこまでを意図してつくったかは分からない。このような表象の構造批判までは意図していないという解釈の方が穏当かもしれない。だが、観る者に対して、大きな解釈の幅を与えることこそが、ワイズマンという尊敬すべき映画監督のねらいだといって差し支えないだろう。
by anti-phallus | 2012-08-06 19:15 | シネマレビュー