菊地夏野のブログ。こけしネコ。


by anti-phallus

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

記事ランキング

最新の記事

ジュディス・バトラー インタ..
at 2017-03-11 21:12
朝日新聞・女子力コメント
at 2017-03-08 13:39
N・フレイザー/A・ディビス..
at 2017-02-25 18:20
【補足追加】中日新聞上野千鶴..
at 2017-02-16 17:31
フレイザーのトランプ論「進歩..
at 2017-01-28 23:19
アンジェラ・マクロビー「アン..
at 2017-01-25 13:25
大学の男女共同参画政策について
at 2016-12-22 20:10
ナンシー・フレイザー インタ..
at 2016-11-29 20:00
似ている
at 2016-11-11 20:45
 辺野古 圧殺の海 第2章
at 2016-08-10 15:31

カテゴリ

全体
つれづれ
非常勤問題
小説
ブックレビュー
シネマレビュー
仕事
イベントの案内
フェミニズム
セックス・ワーク
クィア/LGBT
日本軍「慰安婦」問題
原発/震災
ユニオンWAN争議
その他
未分類

以前の記事

2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 08月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 05月
2014年 03月
2014年 02月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月

最新のコメント

> maonosukeさ..
by anti-phallus at 13:16
> maonosukeさ..
by anti-phallus at 14:39
論文を読みたいのですが、..
by maonosuke at 08:05
> yasuokaさん ..
by anti-phallus at 12:58
卒論で「女子力」を取り上..
by yasuoka at 23:52

画像一覧

『外泊』によせて:自覚されない闘い

 『外泊』とは、韓国の女性非正規労働者を撮ったドキュメンタリー映画です。関連サイトはこちらこちら

 ホームエバーという韓国大手スーパーマーケットが、2007年6月非正規保護法の施行を前にして、法を逃れるためにパートのレジ係を大量解雇しようとした。韓国でも、日本と同様スーパーのレジで働いているのは中高年の女性が多いようだ。彼女たちは反発して、ストライキを始める。職場であるスーパーに泊まり込みを開始、これが結婚以来、彼女たちにとって「初めての外泊」。

 先月末から今にかけてキムミレ監督が来日しており、全国各地で上映会が行われた。わたしも岐阜での上映会に関わった。
 今回観たのが2回めで、前回より理解が深まったように思う。

 この映画は映像が、過剰な解釈なしに、ポンと差し出される。ナレーションは必要最低限の説明しか入れない。急激に変化していく闘争500日間の経緯を追っていくだけでも大変だが、シンプルな演出がよけいに観ている者も闘争に参加しているような空気を作り出している。
 
 そしてさらに難しいのが、彼女たちは何に対して闘っているのか、ということである。
 もちろん、彼女たちは自分たちを「ただのレジのおばさん」として使い捨てようとする経営者たちに怒り、闘っている。観る者は、スーパー経営の背景にある新自由主義的経済の圧力が韓国でも日本同様生活を脅かしていることを知り、怒りを感じる。だが、時々挿入される、彼女たちの家庭生活のさま。
 夫が闘争現場にやってきて、「もう茶碗洗いは嫌だから早く帰ってきてくれよ」と笑い、彼女は何ともいえない笑顔で周りを見回す。闘争が長引くと、家族が反対するからもう闘えない、と語る女性。「良き妻・良き母として家庭に帰りたい」と組合の大会でアピールする女性。
 これらの映像は、一体どうやって理解したらよいのか。監督は何を考えてこれらのシーンを入れているのか、観る者は混乱することになる。
 映画の中でははっきりした答えは出てこない。宙ぶらりんのまま、問いは残される。

 今回2回目に観て、また監督と接する機会もあり、分かってきたのは、これらのシーンも、彼女たちの闘いのひとつだったのではないかということだ。
 彼女たちは、職場で闘うだけではない、家庭でも闘っているのだ。それは自覚された闘いではないけれども。
 女性にとって家庭は労働の場だ。家族に食事をさせ、洗濯をし、介護をし、掃除をする。それはたいへんな労働量である。日本のデータだが、普通の仕事時間だけではなく、家事時間も入れると、日本の女性は男性より長時間労働をしている。だがもちろん収入は女性の方が圧倒的に低い。家事時間は「労働」と認められないのだから。女性自身も仕事とは思っていない人が多いだろう。何しろ「妻」「母」は家族を愛するからこそその世話をすることになっているのだから。愛する故の行動は労働であるはずがない、この社会では。
 そんななかで、闘争に参加するために、彼女たちは家族の説得に苦労した。家事を普段通りにするよう努力し、夫に気を使い、頭を下げて闘争に参加したことだろう。
 
 わたしは、彼女たちのような女性に、自覚して、これらの家庭での闘い、家庭との闘いに挑んでほしいとは思うけれども、愛と労働と生とが渾然一体となった近代家族の領域では非常に難しいことだ。
 「良き妻、良き母として」と胸を張る女性に対して言葉を失った瞬間はこれまでにもある。日本や韓国のマジョリティの女性たちが、「良き妻、良き母」にならずとも、胸を張って堂々と、自由に生きられる社会はいつくるだろうか。

 1回目に観たときは、この「良き妻、良き母」という台詞に対する監督の思いがつかめずに悶々としたが、資料を読んだり、本人と接してみて、たぶん監督自身も複雑な思いを抱いているのだろうなと思えた。
 そういう女性たちに、目覚めていないとレッテルを貼ることはしたくない。だが全肯定もできない。せめて、彼女たちが揺らぐ瞬間を、カメラに撮りたいと、監督は思ったのだろう。


 性差別/ジェンダー・セクシュアリティをめぐる闘いは、普通イメージされる「闘い」の意味を軽く裏切って、私たちの仕事や生活、日々の営み全体をとらえてはなさない。
 今回、DVDが完成したので上映会に来られなかった方は是非観てください。面白いです。
[PR]
by anti-phallus | 2011-02-06 19:53 | シネマレビュー | Comments(2)
Commented by まるこ at 2011-02-07 22:34 x
パートのおばちゃんの働き方は、「主婦は家族が第一」という価値観を事業主と共有しているから成り立つのだと日々感じます。家族を守るためには自分のことは二の次という意識がないと、この社会、子どもを育てられない面があると思う…それでも「外泊」して闘う彼女たちに心を打たれました。
Commented by anti-phallus at 2011-02-13 10:56
コメントありがとうございます。レスが遅れてごめんなさい。
「家族のためには自分は二の次」と言う意識は、ある意味自分を充実させるものでもあるかもしれませんね。むしろそういう境地に行くために女性は子どもを産む面があるようにも思います。
だからこの問題って言語化しにくいんですよね。フェミニズム的にいいともわるいともいえない。簡単に女性が犠牲になってるとも思えない。ここを切り捨てちゃったらジェンダーの意味が見えなくなると思うんですよね。