菊地夏野のブログ。こけしネコ。


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フィリピンの女性文学『七〇年代』

 最近はやっと時間ができて、元気も出てきた。
 元気の出る小説としてお薦めの本、ルアールハティ・バウティスタ『七〇年代』(めこん)。
 1970年代フィリピンの社会を女性主人公の言葉から活写した作品。中流階級の「普通の母親」だった主人公が、家庭生活の変化や時代の空気の中で少しずつ変わっていく過程が描かれている。
 面白いのは、主人公のアマンダの心の中の葛藤が、ベティ・フリーダンが書いたようなアメリカ中流階級の専業主婦の女性のものと酷似しているところ。可愛い子どもと頼もしい夫に囲まれ、彼らのために生きることで満ち足りているはずが、いつのまにか心の空洞を感じるようになっていく。彼女は「人間らしさ」を求めるようになっていくが、その心の変化の一因ともなっているのが当時活発であった左翼運動だ。
 フィリピンの労働者は結局のところアメリカ資本のために収奪される社会構造になっていて、庶民の貧困はいつまでも変わらない。フィリピン政府はこの収奪構造を変えようとはしない。これを変えようと多くの若者が運動に入っていき、アマンダの息子もそうだった。
 アマンダは初めはとまどい苦悩するが、徐々に活動家たちの理想を理解するようになっていく。と同時に夫との関係性も変化していく。

 運動をやや美化しすぎな感もあるが、普段なかなかフィリピン社会の実情に触れられない日本の読者には衝撃を与えうると思う。また、民衆の貧困についてはマスメディアもある程度報道することがあるが、その貧困に対して闘っている人々の存在については黙殺している。
 日本とはあまりに違う社会。今、国内で問題化されている貧困を、このようなアジア諸国、周辺化されている国々の下層のひとびとの貧困とつなげて考えてほしい。最近の私は、その視点がない日本の貧困論に、いらだちを感じてしまってしょうがない。『蟹工船』が話題になるなら、この本も、この本こそ是非読まれて欲しい。
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by anti-phallus | 2010-11-10 17:11 | ブックレビュー | Comments(0)